思いは記念日にのせて

 いきなり呼ばれて声がうわずり、立ち上がった瞬間に足をぶつけて強打した。
 こんなに早く呼ばれるとは思わなくて油断してた。
 ホールの端の席で立ち上がる上司はまだ若そうな男性。
 慌てて頭を下げると優しそうな笑みを返してくれる。
 ちょっとホッとして着席し、自分の部署が何階にあるか確認する。
 うわ、最上階だ。毎朝エレベーターに乗らないと厳しいな。
 しかも広報部に配属されたのはわたしだけ……もしかしたら社員も少ないのかもしれない。急に不安になってきてしまった。
 
 同じ研修グループからは美花さんが秘書課に、茅野くんは物流部の経営戦略課、高部くんは希望通り海外事業部の配属になっていた。すごい。
 茅野くんも経営学部を卒業していて経営に関わる仕事をしていきたいって言ってたから希望通り、美花さんも秘書検定一級を持っているから元々秘書課希望だったし、みんな希望通りの部署へ配属されたようだ。
 で……わたしは?
 広報部ってなんだかピンとこない。
 本が好きでそれに携わる仕事をしたかったけど部署名に『書籍』も『雑誌』もつかないことに正直少しだけ落胆した。つく部署はたくさんあるのに。
 
 全員の名前が読み上げられて、配属部署へ移動になる。
 ホール内は移動の音が響き、研修メンバーとは目線で挨拶をしてみんなバラバラに別れていく。
 上司がいる手前、大げさに別れを悲しむという行動にでる新人はいなかった。
 ふとリーダー席を見ると霜田さんと視線があった。
 なんとなく切なげな表情をしているように見えたけど、軽く手を挙げて見送ってくれている。
 今までありがとうございましたの意味を込めてわたしも軽く会釈した。

 寂しい、怖い。
 わたしやっていけるのかな。
 霜田さんに毎日会えなくなってしまう。だけど頑張らなきゃ。

 たまにだったらメールしてもいいかな、いいよね。
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