強引上司の恋の手ほどき
【もうすぐ仕事終わるから、下で待ってて】
中村くんから届いたメールを確認してロッカーを出た。いつも待ち合わせするときは会社を出てすぐの生け垣の前で彼を待つことにしていた。
急だったけど、この服で平気かな? まぁ、変ではないだろうけど。
今更自分の服装を気にしていると、足音が聞こえて振り返った。
「ごめん、待った?」
中村くんがこっちに向かって駆けてきた。
「大丈夫。メールもらってから出てきたんで」
「エレベータがなかなかこなくて、ごめんね。いこっか」
歩き出した彼の少し後ろをついていく。ふたりで歩くときはいつもこうだ。
今日はどこに行くんだろう?
中村くんと出かけたり食事をしたりするときは、ほとんど彼が決めてくれる。デートでいくような気の利いたお店も知らないから、助かってるんだけど。
歩いていると会社の近くにある居酒屋から焼き鳥のいい匂いが漂ってきた。
あぁ……久しぶりにここのつくね食べたいかも。
たしかこの間行ったのは、経理課のみんなとだった。脳内が焼き鳥でいっぱいになる。
「どうかした? 今日の店さ、電話したらたまたま予約がとれたんだ。好きだったよね? イタリアン」
「好きだよ。イタリアン」
脳内の中の焼き鳥を抹消して、中村くんに笑顔を向けた。