強引上司の恋の手ほどき
私のためにわざわざ予約してくれたんだ。焼き鳥はまた美月さんたちと一緒に来ればいい。

自分に言い聞かせて、中村くんの後を追った。

連れてきてくれたイタリアンレストランは、先週昼休みに読んだ雑誌に取り上げられていた最近できたばかりの店だった。

「一度来てみたいと思ってたお店で嬉しい」

「よかった千波が好きだと思ったんだ」

私の好きそうな店をわざわざ選んでくれたんだ嬉しいな。なのに焼き鳥が食べたいなんてダメだな私。

メニューを見ていると、中村くんがウェイターを読んだ。

うそ……まだ決まってないのに。

慌ててメニューのページをめくって、決めようと焦る。

昨日お魚だったから、今日はお肉って気分なんだけど……。

「千波嫌いなものなかったよね?」

「はい、なんでも食べられるけど」

「じゃあ、こちらのコースをふたり分。メインは魚で」

え……もう注文したの?

「ここ魚料理がうまいんだって。楽しみだね」

「あ、うん」

「ワインは白ワインをお願いしようか?」

「ええ」

……なんだろう。なんかうまくいかない。

中村くんといると楽しい。だけど、こんなふうに“これじゃない”って思うことがこれまでもたくさんあった。

大丈夫、いつかこういう違和感もなくなるはず。

恋愛経験が乏しい私には、時間が解決してくれると思うほか方法がなかった。

こんなに優しくて、私のことを思ってくれている人いないよ……。

私はつまらない心配を胸にしまって、食事を楽しむことにした。
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