強引上司の恋の手ほどき
「ありがとうございます」

わざわざ買ってくれなくても大丈夫なのに。でも気遣いが嬉しくて素直に受け取った。

仙台支店は大規模支店だ。総務部長に言われたとおり、課長は所長に挨拶に向かった。

缶コーヒーを飲みながら、スマホをチェックをした。美月さんからお土産を催促するメールが届いていた。

美月さんらしいな……。

そのあと研修の資料を読み返していると課長が戻ってきた。時計を確認するとすでに十八時が回っている。

「悪いな……支店長たちと飲み会になった。マジでうちの会社はどこいっても飲みたがるな」

課長は顔をゆがめて、首に手をかけていた。

普段なかなか仙台に顔を出さない人がきたのだ。上の人間同士のつながりだって大切だろうし、こういうことはよくある。

「じゃぁ私は先に帰りますね」

私は立ち上がってバッグを持とうとしたが、私の手が伸びる前に課長がそれを奪うようにして持った。

「なに言ってんだよ。俺だけ犠牲にするつもりかお前も一緒に来るんだ」

「え、どういうことですか?」

「いいから、黙ってついてこい。約束通りうまい牛タン食って帰るぞ」

結局強引に押し切られた私は、課長と一緒に仙台支店の営業課のメンバーと飲みに行くことになってしまったのだった。
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