強引上司の恋の手ほどき
「なあ、菅原知ってる? 営業課の中村のことなんだけどこの間偶然電話で話すことがあってな……」

びくりと体が反応してしまう。

できればあまり聞きたくない話だが私は顔を引き攣らせながらもはいと返事だけした。

「なんかさーあいつ本社の女の子に二股かけられたって騒いでたんだけど、相手が誰だか知ってる?」

二股? 中村くんがこの間まで付き合っていたのは私だけど、二股なんてしてな……あ、課長のことか。そういえば中村くんにはまだ誤解させたままだった。

「なんか相手が奥手なふりをして、散々貢がされたとかっていう話聞いたんだけどそんな女の子いたかなぁ新人?」

それは間違いなく私のことだろう。

まさかこんなところまで、別れた相手のうわさ話をしているとは思わなかった。一体彼は何がしたいんだろう。

そのとき、座敷の入り口から課長が入ってくるのが見えた。中座していたようだが戻ってきたみたいだ。

このままだったら、この話聞かれてしまう。

きいたところで課長はきっと笑い飛ばすだろう。けれど真偽のほどは別として自分の悪評を好きな人に聞かれることに我慢ができなかった。

しかし、相手はお酒に酔っているのか私の表情に気が付かずに話を続けた。

「社内でもモテる男の中村を、弄んだ女がどんなのかって」

このままじゃ課長に聞かれてしまう。

私はいたたまれなくなって、声をあげた。
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