強引上司の恋の手ほどき
「あの……お騒がせしました。ごちそうさまです」

私がそう言うと「またいつか、飲もうね」と返事があった。どうやら課長のお陰で変な雰囲気のままお別れしなくて済みそうだ。

ペコペコと頭をさげて、座敷から出た。課長はすでに靴を履いて待っていた。

急いで靴を履いて、顔をあげる。

「お待たせしました」

「いくぞ」

歩き始めた課長の後について店を出た。

大通りに出ると課長はすぐにタクシーを止めようとするが、週末の金曜日だ。なかなか空車のタクシーが見当たらない。

キョロキョロと周りを見渡しながら、課長が私に話しかけてきた。

「どうしてあんな大声だしたんだ。中村の噂話くらい、笑って済ませれておけばそのうち消えて——」

「課長に聞かれたくなかったんです」

かぶせるように言葉を口にした私を、課長が驚いた顔で見る。

「……どういうことだ?」

自分でも暴走しかけているのがわかる。けれど、心のなかでストップをかける前に言葉が出ていた。

「課長には……、課長にだけは聞かれたくなかったんです」

「どうして?」

窺うように顔を覗きこまれた。目が至近距離で合う。

もうこれ以上は黙っていられない。
< 146 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop