強引上司の恋の手ほどき

「あの……」

「いやーお客さん。こっちへはお仕事で来られたんですか？」

課長と話がしたいのに、タクシーの運転手さんが話しかけてきた。

「はい。思っていたよりも寒くなくて助かりました」

「今年の冬は、比較的暖かいからね〜」

世間話が途切れることなく交わされている中、私だけが課長のセリフの真相を知りたくて落ち着かない。

しかしそんな私を知ってか知らずか、世間話の応酬は駅につくまで続いた。

「ありがとうございました」

笑顔の運転手さんに別れを告げると、課長はさっさと改札に向かって歩き始めた。私はそれを必死で追いかけて、時間をとってもらおうとするけれど追いつけずにいた。

「か、課長……あの、ちょっと待って下さい……」

足元を見ながら歩いていると、ドスン人にぶつかった。

「すみません」

顔をあげるとそれは課長の背中だ。確かに待ってくれとは言ったけれどこんなに急に立ち止まらなくていいのに。

ぶつけた鼻をさすりながら、課長を見ると電光掲示板を見て立ち止まっていたようだ。

「もう、課長！　急に止まったら困ります！」

「そうだな、急に止まられると困るよな」

「わかってるなら、止まるって……ん？」