強引上司の恋の手ほどき
「なに、買ったんですか?」

「……歯ブラシ」

ん? 一瞬間があったような……。まぁいいか。

「ホテルに歯ブラシありますよね?」

「俺嫌いなんだよ、あの歯ブラシ」

案外繊細なんだ……と言いそうになってやめておいた。

週末の夜の繁華街は、人で溢れていて課長とはぐれないように歩くのに必死だった。さすような冷たい風が時折吹いて鼻がジンジンする。けれど頬はなぜか赤く熱をもっていた。

さっき飲んだアルコールのせいかもしれない。けれどそれだけが理由ではないことは私にもわかっていた。

課長抑えてくれたホテルは、航空会社の系列のホテルでビジネスホテルだと思っていた私は驚いてしまい、ドアマンが扉を開けてくれていたのに足をとめてぼーっとしてしまった。

「か、課長。本当にここに泊まるんですか?」

「なにか問題でもあるのか? 手続きして来るから待ってろ」

お、お金……ここじゃきっと宿泊の出張経費の中では賄いきれない。

私は課長に言われたまま、ソファに座って手続きが終わるのを待っていた。

……課長だってわかってるはずなのに、あ、もしかしたらここしか空いてなかったのかもしれない。
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