強引上司の恋の手ほどき
ひとりで色々考えていると、課長がカードキーを持って戻ってきた。

「ありがとうございます」

それを受け取ろうと手を伸ばす。しかし、それを阻むように課長が手をひっこめた。

「え？　それ私のじゃないんですか？」

「そうだな。正確には違う」

課長は時々こうやって、トンチみたいな会話をするけれど私がそれを一度で理解したことなんてない。

「どういう意味ですか？」

するといつになく真剣な顔をした課長がもう一度私に鍵を差し出した。

「この部屋はダブルの部屋だ。ベッドはひとつ。それが意味することはわかるな？」

それって……いくら私でもそのくらいの意味は理解している。ふたりで同じベッドに寝るということだ。それがただ“寝る”だけじゃないってことも。

「はい」

「嫌だったら、シングルの部屋をふたつ取る。どうする？」

まっすぐ私を見つめる顔には、いつものようなふざけた表情は微塵もなかった。

どうするって、どうしたら……。

「ちゃんと自分で選ぶんだ。流されるんじゃなくて、ちゃんと自分で」

課長はきちんと選択肢を与えてくれる。そしてきっと私の選択肢を優先してくれる。

頭で色々考えているうちに気がつけば、私の手は課長の持っているカードキーに伸びていた。
< 152 / 222 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop