強引上司の恋の手ほどき
「この部屋に泊まります」

課長の反応が怖い。誘われたのは私なんだから自信を持っていいはずなのに。

「そうこなくちゃな」

課長は私の荷物を人質のように取り上げると、そのまま私の手を握ってエレベーターホールへと向かう。

ボタンを押してエレベーターを待つ間も、手は握られたままだ。というか……指と指が絡まり合って、それが私の気持ちを高ぶらせた。まるで指先でもてあそばれているようだ。

——しかもそれが嫌じゃない。

エレベーターに乗りこむと二人きりになった。私が課長に思いを伝えてから初めてふたりっきり。意識したらなんだか緊張してきた。

「緊張してる?」

長身の課長が屈みこんで耳元で話しかけてきた。

「わかってるのに、聞くんですか? 意地悪です」

「あれ? 今頃気づいた。でももう遅いけど。今日はもっと“意地悪なこと”するつもりだし」

耳元でからかうようにささやいた彼の、甘い視線につかまってしまう。
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