強引上司の恋の手ほどき
第五章 本物の恋 side 郡司
《第五章 本物の恋 Side 郡司》

菅原を始めて見かけたのは、転職後一ヶ月のことだった。

同じ分野での転職。販売するものは同じでも会社が違えば商品も違う。

社風や独自の文化など慣れなければどうにもならないものもある。

しかし、ヘッドハンティングされてきたという手前すぐに実績を出さなければならない。

はりつめた毎日で気疲れしていたときに、給湯室から聞こえてきたのが彼女の鼻歌だった。

ちょっと調子外れの歌だったせいかなんだか気になって、中をのぞいてみると嬉しそうにシンクを磨いている姿が
目に入った。

事務の社員などまだほとんど出社していない朝早い時間に楽しそうに雑用とも言える仕事をやっている姿が印象的だった。

その日俺は、なんとなく……ただ本当になんとなく廊下の壁にもたれて少し調子のはずれた鼻歌を聞いていた。

それから毎日、同じ時間に給湯室から鼻歌が流れてきていた。コンビニで流れるような流行りの曲のときもあれば、CMソングだったり、時には演歌だったりもした。
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