強引上司の恋の手ほどき
「いいのよ、別に。今度、課長にビール奢ってもらうから」

肩をすくめる美月さんに「そうしてください」と返しておいた。

私はきりのいいところまで仕事を仕上げると、机の周りを片付けた。

「お先に失礼します」

部署のみんなに声をかけると「お疲れ〜」と返事が帰って来た。

「楽しんでおいで。ハッピーバレンタイン」

そう言った美月さんに見送られて私はロッカーへと向かった。



いつもは昼休みにくらいしかしないメイク直しもキチンとして鏡で何度もチェックした。

仕事帰りなのでそこまでおしゃれは出来ないけれど、お気に入りのコートと買ったばかりのブーツを履いて、デートの準備をした。

「チョコもOKっと」

私はロッカーの中に忍ばせておいた紙袋を手に取る。

その中には少し不格好だけど、一生懸命作った郡司さんに渡すチョコレートが入っていた。

美月さんと同じお店の高級チョコを渡そうと思ったけれど、郡司さんは下手でも手作りを喜んでくれると思い、昨日の夜一生懸命作った。

喜んでくれるといいんだけどな。

時間はまもなく十九時になろうとしていたけれど、まだ郡司さんからの連絡はない。

そうだ……昨日、チョコ作るの結構楽しかったから、今度は別のお菓子作りたいな。連絡がくるまで、駅前の本屋さんでレシピ本を探そう。

私はそう決めると、会社を出て駅前に向かったのだった。
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