強引上司の恋の手ほどき
目当ての本屋さんが目の前にあったが、私は中に入らずに今あったことを考えていた。

考えすぎ……なんでもない。

そう思うけれど、あの光景が目に浮かび落ち着こうとしている自分を邪魔する。

あ……電話。

コートのポケットでスマホが震えているのに気がついた。

しかし私はディスプレイを眺めたまま、通話ボタンをタッチできないでそのまま画面を見つめていた。

「おい、なにやってるんだ?」

ハッとして声が聞こえた方へと顔を向けた。そこにはスマホを持った郡司さんが立っていた。

「どうして電話取らないんだ?」

駆け寄ってくる郡司さんの言葉はいつもどおりのはずなのに、何故か私が責められているような気がしてくる。

——取らなかったんじゃなくて、取れなかったんです。

そう口をついて出そうなのを我慢して、苦笑いでごまかした。

近づいてきた郡司さんは、すぐに私の手をとって顔をしかめる。

「どうしてこんな寒い中で立ってるんだ。中で待てばいいだろう?」

心配してくれていることは手に取るようにわかるのに、その優しさを脳裏に浮かぶさっきの光景が覆い尽くしていく。
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