強引上司の恋の手ほどき
「ほら、行くぞ」

そう言って手を引かれたけれど、私の足は頑なに動かなかった。

そこで私の様子がおかしいことに、郡司さんはやっと気がついたみたいだ。繋がれていた手を振りほどいて、私は自分の背中にかくした。

いつもみたいに強引に連れ去られては困る。

「どうしたんだ。なにかあったのか?」

言わないでいるほうがいいのかもしれない。彼との初めてのバレンタインで、初めて彼の部屋に招待されて楽しみにしていた。

ふと、彼の手に持っている高級洋菓子店の紙袋が目についた。それを見たとき、胸がすごく苦しくなった。

私の持っている紙袋には、苦手だけど初めて作った彼へのチョコが入っている。なのにどうして今、彼が持っているのは他人からもらったチョコレートなのだろうか。

「……その紙袋の中身チョコですよね? 誰からもらったんですか?」

気がつけば私は郡司さんを問い詰めていた。

でも恋愛において“話し合うことが大切”だと私に教えてくれたのは郡司さんだ。きっとこれで正しい。

いつもと様子の違う私に、彼は最初、目を見開いたけれどその後はいつも通り笑顔になる。

それが余計になにかを隠しているように思えてしまう。
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