強引上司の恋の手ほどき
私はいわゆる箱入り娘として育てられた。別に実家がお金持ちだとかそういうわけではなく、心配性の父と母のもとに一人っ子として産まれてきてしまったのが原因だ。
目に入れても痛くないほどかわいがってくれたのは、感謝している。
けれど私だって年頃になるとそれを窮屈に感じることも多々あった。
中学・高校は女子校で大学は共学だったけれど、門限は二十二時。そもそもそこまで積極的ではないのに加えて、親が過干渉となれば彼氏ができることなんて夢のまた夢だ。
だからこそいつまでも親元で甘えていないで、自立した生活をしようと就職を期にこのマンションを借りて憧れのひとり暮らしをはじめたのだった。
「大丈夫、ちゃんとうまくやってるから。私だってやればできるんだよ」
母親を安心させるべく、いつもと同じセリフでごまかした。
『そう、だったらいいけど。体調崩さないように体には気をつけなさいね』
向こうも毎回同じ締めの言葉を言って電話を切った。
「はぁ……ちゃんとしてるかぁ」
全く使われていないキッチンとそこに置かれている炊飯器を見て、小さな嘘の罪悪感を感じた。
お母さん利用しておまけに嘘つくなんて、今日はどんな罰があたっても仕方ないな……。
さっき切ったばかりのスマホを見る。しかしそこには時刻が表示されているだけで、SNSやメール、電話の着信もなかった。
「やっぱり、今日のは感じが悪かったよね……」
連絡のないスマホを見つめてため息をついた。
「だってまだ覚悟ができてないもの」
ふと、あの日のことを思い出す。