強引上司の恋の手ほどき
週末の金曜日、私は旦那さんが接待で遅くなる美月さんに誘われて飲みに行くことにした。
この間、中村くんと気まずくなってからなんとなく気分が張れなかった私は、美月さんの誘いをすぐにOKした。
「千波、いつもの居酒屋でいいよね?」
「はい、久しぶりなんで楽しみです」
IDカードをかざして、エントランスを出ながら話をする。外は昼過ぎから生憎雨が降り続いていた。
傘を広げたと同時に、人影が傘の中に入ってきた。
「よっ!」
「課長」
驚いた私は傘を落としそうになってしまう。しかしその傘を見事課長がキャッチした。
そしてそのまま歩き出してしまう。
「俺、今日傘持ってきてないんだよな。駅まで送ってくれよ」
「え、でも……」
濡れないように必死についていく私の後を美月さんが追いかけてくる。
「私たち、今から飲みに行くんです。だから駅には向かいません」
「え、そうなのか?」
いきなり立ち止まった課長に合わせて私も足を止めた。
「そうですよ。だから駅まで送ってほしかったら、課長も付き合ってください。そしてかわいい部下に奢ってください」
美月さんは歩きながら、さらっと言い放つ。
「は? あのまだ付き合いなさいっていうのは理解できるんだけど、なんで俺が奢ることになるわけ?」
「いいんですよ、べつに。嫌なら濡れていけばいいだけの話ですから。行こう、千波」
歩き出した美月さんの後を、課長が追いかける。