強引上司の恋の手ほどき
「は〜美味しい」

美月さんは唇についた泡を手で拭いながら幸せそう顔をしている。

「この一杯のためにすごい勢いで仕事終わらせてましたもんね」

すごい勢いで仕事をしている姿を私は横で関心しながら見ていた。

「あの、午後からの仕事のスピードはこのビールのためだったのか?」

「なんですか、それじゃいつもはサボってるみたいに聞こえるじゃないですか!」

「いえいえ。滅相もありません」

そんなふたりのやりとりを見ながら私はジョッキを傾けていた。

「今年は監査が入るんでしたっけ?」

「あぁ、その予定だ。あぁ面倒だな」

課長が窮屈そうにネクタイをゆるめた。

「でも、今年は千波もしっかりしてきたし、大丈夫でしょう。ね。千波」

「へ?」

急に名前を呼ばれて驚いた。

「またぼ〜っとして、彼氏のことでも考えてたの?」

「ち、違います」

慌てて否定した私の前に助け舟のように店員さんが現れた。

「お待たせしました〜」

注文した品をどんどん運んできてくれる。

「ほら、食えよ」

課長がふたりで頼んだつくねを先に私の方へと差し出してくれる。

「ありがとうございます」

一つとって、お皿を彼の方へと差し出した。

しかし伸びてきたのは美月さんの手で、お皿からつくねをさらっていく。

「俺の……ひでー」

「いただきます〜」

笑顔でつくねを頬張る美月さんとは対照的に、課長は肩を落としている。

その様子が可笑しくて私はクスクスと笑っていた。
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