強引上司の恋の手ほどき
「さぁ〜なんでだろうねぇ?」

ヘラヘラと笑ってごまかそうとする。

納得しない美月さんが、焼き鳥の串を課長の顔の前に突きつけた。

「うぉっ! 危ない。傷害事件起こすつもり?」

「おおげさ。で、どうして経理課なんですか?」

「まぁ、別に俺の話はいいじゃないか! それより菅原の彼氏って誰?」

「えっ……ごほっ……」

ちょうどジョッキに口をつけていた私は、口に含んでいたビールで激しくむせた。

「千波ちょっと、汚いわよ」

横から美月さんがおしぼりを渡してくれる。

「ありがとうございます」

受け取って口元を拭っていると、美月さんのスマホが鳴り響いいた。

「あれ、旦那だ。もしもし……え? うん、わかった」

手短に会話を終えた美月さんは嬉しそうに笑顔を見せた。

「接待早く終わったから、今から飲みに行こうって。じゃあお先!」

さっさと、バッグをもって出口に向かう美月さんを課長と私はあっけにとられて見ていた。

自分で誘っておいて……でも美月さんの幸せそうな顔をみたら、そんなことどうでもよくなった。

愛されている人の笑顔は、こんなふうに周りも幸せにするんだ。

私の笑顔は……どうだろう?

「あ、課長〜ごちそうさま!」

振り向きざまに捨て台詞を残すと嬉しそうにそそくさとその場を去っていったのだった。

「あ〜マジで俺の奢りかよ……」

顔を歪めて頭をかく仕草がおかしくて私は笑ってしまった。

「あはは。課長も美月さんには頭があがらないですね」

「まぁ、彼女には散々世話になってるからな。まぁビールの一杯や二杯なんてことないさ」

そう言ってビールを飲み干すとメニューを私に差し出してきた。
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