強引上司の恋の手ほどき
「ついでにお前も奢ってやるから、しっかり飲めよ。結構飲めるよな?」

「はい。じゃあえーっと、りんごサワーお願いします!」

「了解、すみませーん!」

課長が店員さんを読んでくれて、注文してくれた。

「あと、何か食いたいものある? たしかこれ好きだよな。山芋焼いたやつ」

メニューを指さしている先にあるのは、山芋をすりおろして鉄板で焼いたものだ。

「よく覚えてるね〜」

「いつだったか、めっちゃ熱そうにして食ってたよな。じゃあ、これも」

てきぱきと注文してくれている課長を見て、ふと中村くんのことが頭をよぎる。

【千波は、お酒弱いもんね】

彼氏である中村くんよりも、課長のほうが私のことをよくわかっているような気がする。

そもそも付き合い初めてまだ日が浅い。だから仕方のないことなのかも知れないけれどこ

このところ感じる言いようのない感情が私の思考を暗くさせている。

「どうした? 急に黙って」

「あ、別に……なんでもないです」

そう返事をして改めて思い直した。

目の前にプロがいるじゃないの!

恋愛“超”初心者の私がいくらひとりで考えたって、これ以上はなにも手立てがない。

ならば恥を偲んで深沢課長に助けを求めてもいいのかもしれない。

彼がいつか言ってくれた食堂でのセリフが頭に思い浮かぶ。

『かわいい部下の悩みくらい聞いてやるぜ』

今がきっとその時なのだ。私は思い切って彼に相談することにした。
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