強引上司の恋の手ほどき
「処女も処女……恋愛処女だもんね」

「美月さんっ!」

真っ昼間の食堂でなんてことを!? これ、男性社員が言っていたら、間違いなくセクハラで訴えられますから!

「でも、本当のことでしょ。初めての彼氏なんだから」

美月さんの言うとおり、中村くんは私にとって初めての彼氏だ。

色々リードしてくれてはいるけれど、スペックの高さとともに、恋愛能力の違いに日々悩まされている。

「はぁ……やっぱり中村くんみたいな人に私は似合いませんよね」

「まあ、恋愛は本人たちがするもんだから、何とも言えないけど……頑張んなさい」

ドンと背中をたたかれた。けれどすぐに浮上できない。

さっきから文句も言わず、お皿の上のアジフライは私につつかれ続けている。

すると、にゅっとお皿の上ににゅっと手が伸びてきて、つつかれていないほうのアジフライが盗まれた。

「ちょっと……」

顔をあげるとそこには、直属の上司である深沢(ふかさわ)課長が立っていた。

「なに? 悩み事か?」

もぐもぐと美味しそうに、私のアジフライを食べているこの男もまた、社内ファンが多い。

少し明るめの髪を遊ばせていて、整った顔はいつまでも見ていられるような気さえしてくる。

ずけずけと自信満々にものを言い仕事となれば厳しいけれど嫌味にならない彼の周りにはいつも人が溢れていた。そしてそんな彼に憧れている女子社員も多い。
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