強引上司の恋の手ほどき
「あ、ええと。大丈夫です」

「そっか、この世の終わりみたいな顔してるけど?」

そんなにひどい顔なの?

「かわいい部下の悩みくらい聞いてやるぜ」

お願いします! と思わず手を取りそうになてしまう。あぶないあぶない。

でも、こんな風に言われたら女の子が課長を好きになるのも頷けるかも。

「今はまだ大丈夫です。本当に困ったときは助けてください」

「あっそ。アジフライごちそうさん」

ニカッと人好きのする笑顔を見せて、アジフライの油が付いた指を私のカーディガンで拭くふりをした。

「もー! やめてくださいっ」

私の抗議など届かないようで、ひらひらと手を振り食堂を出て行った。

「いつも通りチャラいね〜」

美月さんが感心するように、課長を目で追っている。

食堂を出るまで、三人もの女子社員に声をかけられていた。それを適度に交わしながら歩いて行く。

「あ、もうこんな時間。千波も早く食べちゃいなさい」

「はい」

時計を確認すると、あと二十分しか昼休みがない。私はあわててアジフライをほおばった。

まさか本当に課長にSOSのサインを出す日がくるなんて、このときはまだ思ってもみなかったのだ。

< 4 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop