強引上司の恋の手ほどき
正直大変だった。今日もキッチンはグチャグチャのまま出勤してきた。

けれどこうやって、中村くんが喜んでくれていることで全部チャラになる気がする。

「ごちそうさま」

そう言った彼の手元のお弁当箱には、一口かじられただけの卵焼きが残っていた。

「あの……。玉子嫌いだった?」

ポテトサラダに入った玉子は食べていたはずだ。

「いや、俺甘い玉子焼きダメなんだ」

「そうなんだ……」

「ごめんね」

「いえ、事前に聞いておくべきだったね、気にしないで。次は気をつける」

そうは言ったものの、自分の好きなものが否定された気になって落ち込む。

課長は百点って言ってくれたのにな……。

私はお弁当箱を片付けながら、中村くんの話を聞いていたのだけど心に引っかかったなにかが、きになって仕方ない。

いつか、中村くん好みの卵焼きが作れるようになるのだろうか。その日のために私はこれからどれぐらい努力して彼に合わせないといけないんだろうか。

そのときふとおいしそうに卵焼きを食べてくれた、課長の顔が思い浮んだ。
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