ウソ夫婦

「俺は大丈夫だ」
息を切らしながら、颯太が言った。

「でも、でも」

一人で行きたくない。

あすかは動揺して泣き出した。

「泣くな、大丈夫。俺は必ず、追いかける」

その間も、どんどん男たちは椅子を乗り越え迫ってくる。

「行け、早く」
「でもっ」

颯太があすかと目を合わせた。

深海のような、瞳の色。

「俺は、まだ、お前の返事を聞いてない」
大男を両腕で遮りながら、叫ぶように話しかける。

あすかの心臓がねじれるように痛んだ。

「だから……必ず、終わらせる」
颯太の唇に、笑みが広がった。

「行け」

あすかは泣きながら、頷いた。

颯太に背を向けると、倒れた男をまたいで、飛行機から飛び出す。

全速力で、走り抜ける。

颯太は必ず、追いかけてくる。
そう約束した。
だから……。

必死に足を動かして、飛行機から三十メートルほど離れた時。

突然、あすかは、跳ね飛ばされた。

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