ウソ夫婦

何も理解できずに、自分たちの部屋へ戻ってきた。

部屋に入ると、颯太は翠の手首を調べて「痛くないか?」と聞いた。

「うん」
翠はそう答えたものの、まだポカンとしている。

なんで、家に帰ってこれたんだろう。

リビングに入ると、颯太は何事もなかっようにエアコンをつける。それから冷蔵庫へと向かい、オレンジジュースを手にとった。

「ねえ」
「ん?」
颯太がパックから直に飲みながら、翠を見る。

「何、見せたの?」
「……見たい?」
颯太がポケットに手を入れたので、慌てて首を振った。「いい、なんか怖い」

翠はなんだか腑に落ちない。

「その気がないなら、どうしてあんな芝居したの?」
「翠が『俺が襲われてもいい』って言うから、期待に添おうと思っただけ」
飲み終えたパックを、シンクに入れる。

「……そんなこと言ってないけど」
「言ったよ」
「別に気にしないって言っただけで……」
「でも、気にしただろ?」

颯太が勝ち誇ったような顔をした。翠はぐっと息を詰まらせる。

「気にはしてません」
「ウソつけ。泣きそうになってたじゃないか」

確かに、嫌だった。颯太が他の女に触られるなんて、吐き気がする。

「認めたら、楽なのにな」
「認めません」
翠はぷいっと横を向いた。

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