Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~


「作戦失敗。おまえが買ってきたおかしなシャツのせいでムード台無し」
「ムードもなにもない。あれが私たちの空気なの。もう諦めてよ」

 深夜の歩道、約500メートルの距離を永瀬に送ってもらって歩く。
 永瀬はTシャツの上から上着を着ている。さすがにあのTシャツでは外は出歩けないらしい。

「やっぱ、永瀬と一緒にいると楽しいよ。私はずっと友達でいたい」

 酔ってるせいもあるが、自然と口から出た言葉は本心だ。

「永瀬だってほんとは私と同じ思いでしょ? 事情はあるかもしれないけど無理しなくても……」
「無理はしてない」
「あのさぁ。あんたの態度。とても私を異性として意識しているようには……」
「なんでおまえに分かんの? なんで自分と同じだと決めつける?」
「それは……」

 私の願望もあるかもしれない。

「俺はもう、とっくにおまえのことは女として見てるよ」

 思いもよらない永瀬の言葉に絶句した。とっくに……って。いつから……

「細いけど腕や太ももは柔らかそうだし胸も意外とあるだろ。ギリCはあるとみた」
「やっぱりふざけてるでしょ!」

 声をあげていつもの調子で突っ込んだけど、永瀬の目はじっと私を捉えて離さない。
 いつの間にか足は止まっていた。
 突然の永瀬のどこか重い雰囲気に圧倒されて半歩下がると、背中には宅地を囲うコンクリートの感触。

「綾だってさっき、俺のこと見てドキドキして意識しただろ」

 認めるのは嫌で首を振って否定をすると気に入らなさそうに眉間にシワを寄せた。
 じわりと距離を縮めてくる永瀬の指が唇に触れた。唯一の光である街灯が、永瀬の影に隠れて一気に視界が暗くなった。

「この唇だって、どんな味がするのかずっと知りたかったよ」

 この状況は一体……。
 身体はコンクリートに押し付けられて手は拘束された。身動きが取れない。身体に力を入れても、嘘、びくともしない。かなりの危機的状況!?
 目の前に迫る唇に、混乱、照れくさい、少し怖い……色々な感情が入り混じって居ても立っても居られなくなってぎゅっと目を閉じた。胸が、息が苦しい……!
 私、永瀬とキスしちゃうのかな―!? 胸の高鳴りが最高潮に達したその時――

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