Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「……はっ……っくしゅん!!」

 突然のくしゃみの音に驚いて目を開く。
 永瀬が「さむっ」と言いながら鼻をこすっている。え……。え!?
 永瀬はそのまま何事もなかったかのように背を向けるとスタスタと歩き始めた。

「ちょ、ちょっと!?」

 思わず呼び止めたけど、「なんだよ」と振り返られても特に用事はなく……目を合わせてただ、沈黙。

「早く来いよ。行くぞ」
「は、はい……」

 永瀬のあとをついて足を進めるけど、すぐに足止めを食らう。永瀬は再び立ち止まって振り返った。

「目を閉じて真っ赤にしてキスを待つ顔、可愛かった」

 サラリと爽やかな笑顔でそう言うと、背を向け鼻歌を歌いご機嫌な様子で前を歩く。
 私はというと、永瀬から三歩遅れて、深く俯いたまま自分の足先を見ながら歩く。
 いつもならからかわれたと腹を立てるところなのに、怒りよりも強く波打つ動悸が邪魔してただただ息苦しい。
 さっきの私を見据える鋭い瞳も、私を拘束する強い腕も、どちらも捕らえられたら最後全身を支配されて逃げられなかった。私のよく知る永瀬じゃないみたいだった。男であることを身を持って思い知らされたような。
 今のこの胸の高鳴りはただの恐怖心……だよね?

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