Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 目が覚めた時、部屋の中は明るかった。
 いつの間にか夜が明けて朝になっていた。前日に夕方まで眠っていた私たちに眠気は訪れないと思っていたけど、ベッドで何度か抱き合ったあと、そのまま眠ってしまったらしい。

「やっと起きた?」

 ベッドの脇に腰掛けた永瀬が、首を回しながら気怠そうしている。分かる。私も身体が重い。

「なんか、疲れが溜まったような顔してるな?」
「そっちこそ。若くないのに無理するから」
「何言ってんだ。男の性欲は30代からが本番だ」
「はぁ?」

 思わず吹き出すと同じように永瀬も小さく笑った。
 30代……か。永瀬は誕生日まで半年を切っているけど……30になったら本当に実家に帰るのだろうか? 会社は? もう辞めるって言ってあるの?
 あれ……?
 私は、どうなるんだっけ……?
 何か、大事なことを忘れているような気がして急激に心拍数が上がり出したけど、すぐに隣にいる永瀬に気を取られて忘れてしまった。

「なぁ、出かけようか」
「涼しいとこでのんびりするのが一番じゃなかった……?」
「なんだよ。家にいてもヤルことは一つじゃん。のんびりやるようなことじゃないだろ?」

 ベッドに仰向けになったままの私の顔の横に肘を置いて、頭を抱くようにして身を寄せてくる。
 え……ちょっと待ってよ。
 頬を撫でる指が唇に触れて小さく開かされる。

「おまえに対するこの止まらない欲望は、今まで我慢してきたことへの反動かも?」
「たっ……タイム! さすがにもう無理!」

 慌てふためく私を見て吹き出した永瀬が私の両頬を摘まんだ。

「冗談だよ」
「……いたっ!」

 そしてそのまま両頬を引っ張って離すと私の腕を引いて強引に起き上がらせる。

「身体をリフレッシュさせるとこに行こうって言ってんの」
「……は?」
「いいからとっとと着替えろよ。30秒な」
「なっ……」
「さーんじゅ、29、28……」
「わ、わ! ちょっと待ってよ! 女子に30秒は鬼!」

 訳が分からないまま急いで支度をさせられ外に連れ出された。連日の猛暑日。この日も外は強い日差しと茹だるような暑さ。
 連れられてたどり着いたその場所は、車で2時間ほど行った緑に囲まれた清々しい空気の綺麗な場所。恵まれた自然に囲まれた純和風の佇まいの温泉宿だった。

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