恋する時間を私に下さい
VOL.15 離れていく時間
「漫画を描き始めたのは、小学校の頃だったな…」

懐かしく話し始めた。


ーーーーー

『緒方君は絵が上手だね!』
『ホント。マンガ家になれそう!』

クラスの女子から、描いたキャラ絵を褒められた。

『マンガ家ー⁉︎ …なれっこねぇよ!』

読むのは好きだけどなぁ…くらいの気持ちで答えた。

『そんなの、やってみないと分かんないじゃん!』
『何か描いてみてよ!面白いかどうか、判断したげる!』

クラスの好きな子に言われ、冗談半分で描いてみた。

たった四ページほどのマンガ。
主人公は飼ってた猫で、猫目線から見た日常を追った。


『オモシロイ!』
『続きが見たい!』
『描いて!描いて!』


女子だけじゃなく、男子からも言われた。

『スゲェ!』
『ほぼセミプロ並み!』
『マンガ家目指せよ!』


子供心ながら、周りにそれだけ言われると舞い上がった。



『…オレ、マンガ家になる!』


家に帰って一番最初にそう言った。
母は唖然として…

『その前にこのテストの点数何とかしたら?』

ヒラヒラと答案用紙を振って見せた。


『マンガ家〜⁉︎ お前が〜⁉︎ 』

同居してた従兄弟は、ゲラゲラと腹を抱えて笑った。


『確かに絵は上手いけどなぁ…』

また始まった…という感じで、父は聞き流した。


『何にしても、目標を持つのはいい事だ』

肯定も否定もしなかったのはジイさん。
絵が上手いのも知らず、子供の戯言くらいに受け止めた。
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