恋する時間を私に下さい
自分はその人の知人で、『OーGATA図書館』を開くために、無償で貸してもらってるんだと言ってた。
図書館の上は貸しアパートになってて、家賃収入があるから無償化してくれた…ということだった。


そんな話を思い出しながら、幅1メートルもないタイル張りの階段を駆け上がる。
鉄製の階数を示す文字は7階が最後で、そこから先は階段もなかった。


駆け上がったばかりの膝はガクガクしてました。
入院中、ずっと脚を使わないでいたおかげで、すっかり膝が弱ってる。
もつれそうになる足を動かして中へ入ると、目の前に木張りの廊下が広がってた。

いきなり室内に入ったかのような錯覚に陥りました。
等間隔に並んでるドアも全て木で、壁に貼ってある紙は、まるで洋館のような花柄と無地のストライプ。

時代が一気に遡ったような感覚の中、ぼんやりしてる私を手招く人がいた。



「リリィちゃん…!こっち…!」

おいでおいで…と呼んでるのは、アラシさんでした。

とりあえず、入り口の三和土の上で靴を脱ぎ、廊下に上がった。
年季の入った廊下の板は軋み、すっかり色もくすんでる。
どこかレトロな雰囲気は、中の状況も同じだった。


アラシさんは、部屋の前まで来た私に、鍵を手渡した。

「緒方さんは仮眠中。今そこにいるよ」

指さしたのは向かい側のドア。
訳も分からず、ドアとアラシさんの顔を交互に見つめました。



「…あの……」
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