恋する時間を私に下さい
足音を忍ばせてリビングへ向かう。
ドキドキは止まらなくて、ますます大きく響いてくる。

耳鳴りにも似たその音を聞きながら、礼生さんの寝室のドアを開けた。
壁際に置かれたベッドの中で、静かな寝息を立てて眠る人の顔を見た瞬間、涙があふれてきた……



…こんなにも愛しい人だとは、自分でも思ってなかった…。
気持ちが溢れて、止まりそうになかった……。


(礼生さん……)

泣き声を殺して彼に近づきました。
側に座り込み、じっ…と寝顔を見つめる。

この人のことを……心から好きだと思った。
そんな気持ちになれる自分も、また好きだな……と思った。


(よく寝てる……無理ないよね……修羅場明けだもん……)


礼生さんのBL漫画は結局連載打ち切りとなり、そのままではファンが納得しないだろうという加藤さんの提案で、数回に分けて後日談の読み切りが入ることになりました。

礼生さんはこれまでよりも力を入れて、その読み切りを描いてた。

「これで最後にできるなら、これまでの感謝も含めて描く…」

…そう言って。


ーー手紙に書いてあった通りだな…と思いました。
魂を込めて贈るから…という文字を思い出し、胸が熱くなった。


(この人に恋することができて良かった…。あの時…部屋に引き込まれて良かった……)

大学時代、初めて会ったあの日からの出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡ってく。

どの瞬間も愛おしいと思う記憶。
これからももっと、沢山作っていきたい……。


「礼生さん……恋する時間を……私に下さい……」


小さな声で発した一言を、眠ってる彼が笑ったような気がしました。
その可愛らしい寝顔を見ながら、幸せに包まれた時間を送ったーーーー


< 202 / 206 >

この作品をシェア

pagetop