妖しく溺れ、愛を乞え
「じゃあ、これならどうだ」

 なにをする気。あたしは身構えた。

 なにかまたおかしなことをするに決まっている。

 尾島……深雪は、深呼吸をして人差し指を口の前に出した。また深く息を吸うと、ふうと一気に吐き出した。

「……はあぁぁあ」

 深雪は口を大きく開き、そこから……白い煙を吐き出した。なんなのこの人。なんの病気なの!? そうだ、煙草、きっと煙草の煙に違いない。

「い、やあ」

 その煙は、よく見れば粒々が混ざっていて、気が付けば室内はその煙に包まれている。そして、あたしは気が付いた。

「さ、寒い!」

「どうだ」

 煙は勢いを増して、渦を巻いていた。雪だ。この人、雪を吐いている……。信じられない。

 吹雪になっているじゃないのよ!

「寒いよー! やめて寒いよ!」

「これぐらい、南極あたりじゃ当たり前だろう」

 ココ日本デスカラネ! たとえに南極を出さないで欲しい。

 どんどん冷える室内。頬に雪が冷たく当たった。鋭い粒が多いのか、刺さっているみたいに思う。

「やめて……本当に……さ、む」

 急激に冷やされた体が、ガタガタと震え出す。初夏の服装だったあたしのブラウスは、冷えて肌に当たり、ますます体を冷やす。

「深雪さ……ん」

 深雪は立ち上がって、あたしのそばに寄って来た。


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