妖しく溺れ、愛を乞え
「山奥の、人間が立ち入ることの出来ない雪深い里で、暮らしていたんだ」

 俺の実家だと見せられたさっきの映像。映像なのかその場に飛ばされたのか定かでは無いけれど。雪深くひと気の無さそうな場所だった。当たり前か。

「村が、あるの」

「さっき見ただろう。あれは俺の住んでいるところで」

 村があるということは、そこには今でも深雪みたいなのが他にも居るってことなんだ。ああ、でも集団で暮らしているわけじゃないみたいだし……人間界に来ている物も居る。……混乱してきた。

 それにしても……。

 母親も居ない、父親は蒸発。家庭環境が複雑な妖怪。でも、人間だろうと妖怪だろうと、ひとりぼっちは寂しいよ。

 ひとりぼっちが寂しいことを、あたしはよく知っている。


「そっか、じゃあ深雪はひとりじゃないんだね」

「……雅」

「ああ、ほら、山奥でひとりって寂しいじゃない? だったら他に仲間が居た方が良いし。ねぇ。あたし、両親が死んじゃって、じいちゃんばあちゃんも、もう居ないから、だから……あの」

 なんだ、自分の身の上話なんかしちゃって。関係無いのに。


「雅は、優しいな」

 切れ長の目をふっと細めて、深雪は笑った。そんな顔をして見たって、だめなんだからね。あたしは口にぐっと力を入れて、表情を作った。

「そんな顔、すんなよ。俺が居るよ」

「……別に、そんな」

「寂しいって、顔に書いてある」

 心の、中心を突かれたみたいだった。深雪はあたしの頭に手を置いて、すっと撫でた。その手がとても安心するものだと、心が認識してしまった。


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