妖しく溺れ、愛を乞え
自分が眠ってしまったのを自覚したのは、石けんの良い匂いがしたのに視界が暗くて、ああそうか、目を閉じていたのねって思ったからだった。
「う……ん」
「みやび」
あたし、そうだ。椅子に座っていて、ウトウトしてしまったんだ。名前を呼ばれ、良い匂いに鼻をヒクつかせて、眠い目を開けた。
「……あ」
視界に飛び込んで来たのは、切れ長の、黒の中に深い青が滲む瞳と、銀色と白の中間みたいな色の髪の毛。陶器みたいな肌。
さっきと違う。違うけれど、深雪だ。姿が変わっていても、その瞳の色で分かる。あと、いちいち驚いてもいられない。
あたしが一緒に居たのは、黒髪の深雪だったはずだ。
「髪の色まで……変わるのね」
「こっちが、本当の俺だ」
シャワー浴びると、髪の毛が伸びるのかしら。深雪の髪は、腰まで届きそうな長髪になっていた。あたしよりも長い。
「なぁ、もう俺を好きになったか?」
「……そんなに急に、す、好きになるわけが無いでしょう」
疲労と眠気で、面倒臭くてついOKと言いそうになる。近いよ。離れてよ……そんな、シャンプーの匂いをさせて囁かないで。
「抱いても良いか?」
「だめ」
あたしは、目を閉じた。もう良い。ここで眠ってしまおう。起きるのもシャワーを浴びるのも面倒だ。
「……チッ」
舌打ちが聞こえる。そうしたいのはこっちだって言うの。
「おい、雅」
聞こえている。でももう返事はしないんだから。眠いの、あたし。もうだめ。限界。いろんなことが一気に起こり過ぎなんだもの……。
「……眠ったのか?」
夢なのか現実なのか、ふわふわ浮いているような感覚のあと、逞しい腕に抱かれた感じがした。あたしの記憶はそこで途切れる。