妖しく溺れ、愛を乞え

 ◇

「今日は荷物を引き払って来い。俺のマンションはここだ」

 そう言ってメモを渡され、深雪は先に行くと告げるとホテルを出て行った。

 あたしは彼に叩き起こされて、急いでシャワーを浴び濡れた髪を乾かしながら、深雪の背中を見送った。

「い、いってらっしゃい……ませ」

 また会社で会うんだけれどなーと思いながら。


 昨夜は、椅子で眠りこけてしまったあたしを、深雪はベッドに運んでくれていた。
 乱暴だけれど優しいというか。
 昨日、たくさん真実を告げられて、どれが現実でどこからが夢なのか分からない。


 整理しよう。

 深雪は、人間界で生活する雪の妖怪。どうやらそれは真実みたい。理解して受け入れないと、繋がらないしやっていけない。


 ……頭痛がする。

 あたしわりと順応能力高いと思うんだよね。男より女のほうがそうだって言うけれど、実感するわ。

 寝ぼけた頭で出勤し、いつものように仕事をさばく。

 その日は、挨拶まわりだとかで、朝と夕方にしか深雪は姿を現さなかった。こっちとしてはその方が気が楽。顔を合わせても気まずいだけなんだよね。

 またどうせ、人目を盗んで迫って来たりするんだから……。キスはしてしまっているし、これで一緒に住むなんて。いやいや、一緒に住んだからってどうなるわけでも無い。次の部屋が見つかるまで。そうだ、そう話そう。

 とりあえず、ホテル生活も資金的に厳しいから続けるわけにもいかない。少しの間、お世話になるということで、そう話そう。

 不動産には早く帰ることができる日か週末しか行けないだろうし、できれば内覧したい。夜遅くまで営業している不動産が無い。正直、いつまで続くのか分からないホテル生活も、不安だった。お金だってたくさんあるわけじゃないし……。
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