妖しく溺れ、愛を乞え
「はけ口なんでしょう……? あなたの長い命のうちの、ほんの一瞬の」

 きっと、そうなのよね。

「少し、いまだけちょっと寂しいだけでしょ? そこにあたしを拾ったから……仲間とか家族なんか居なくたって、あなたはひとりで生きていける」

 そう言うと、深雪が腕からすっと力を抜いた。
 ひとりぼっちが寂しいと思うのは、きっと一瞬なんだ。

「あたしのこの命の時間を、あなたは奪うつもりなの」

「雅……ちがう」

「違わないでしょ? じゃあどうして」

「お前を、好きだから」

 好きだから。好き、あたしを好き。あたしは……。

「あなたは、人間じゃないでしょう? その、好きだって……いつか終わるでしょう?」

 すっと、目から滴が落ちた。どうして、泣けてくるのだろう。

「雅……」

「あなたは、ずっとこれからも」

 生きて行くのでしょう? あたしが年老いてしわくちゃになっても、そのままで。美しい妖怪のままなんでしょう?

「どうせ、あたしを、置いて行くんでしょう?」

 床に寝たままで、あたしは顔を覆った。泣き顔を見られたくなかった。あたしを好きだというこの人に、こんな顔を。

「……俺は、雅、ごめん」

「……」

 冷たい床からあたしの体を抱き上げると、深雪は、優しく抱きしめてくれた。

 どうして、あたしを拾ったの。あのまま捨てておけば良かったのに。どうして出逢ってしまったんだろう。

 深雪の頬があたしの涙で濡れても、あとからあとから流れてくる。

 腕の中で、安心するのに寂しい。
 静かな雪みたいに降り積もる寂しさも、愛せれば良いのに。


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