妖しく溺れ、愛を乞え
 ソファーに並んで座り、心持ち低いテーブルの料理はもくもくと食べる。ビーフシチューの牛肉は、口の中でホロホロに解けて、じんわり染み込む。もう本当に、最高に美味しい。テレビではバラエティー番組が放送されていた。

「旨いか」

「もう、ほっぺた落ちそう」

 頬に手を当てて、目を閉じる。美味しさにうっとりしてしまう。

「仕事もしていたからな」

「え、そうなの?」

「イタリア料理とか日本料理とか……まぁある程度食えるものは作れるようになった」

 そうだったのか……。そりゃあ料理上手なわけだ。これが人間の男ならあたし勝ち組なのでは、なんて。あたしなんか足元にも及ばないじゃないの。作って食べさせるなんて、嫌だな。

 食べているうちに、時間と番組が変わった。歌番組だった。

「あ、あたしこの人達の歌、最近聞いていて」

 画面には4人組バンドが映っていた。最近人気が出てきた「crimson」というバンド。

 あまり思い出したくない事実だったけれど、スマホに何曲か入っている。それというのも、潤が彼らのファンだったからだ。

「あれ? そう言えば」

「なんです?」

 テレビを指差して、深雪が言った。

「社のCM企画があって、それに使われる曲が彼らじゃないか」

「うそ! crimson?」

 なんだそれ。CM作るんだぁ……お金かけるな。

「それ、深雪は絡んでいるの?」

「直接は絡まない。報告は上がってくるだろうけれど。でも他に候補があったうちの彼らだから」

「へぇ。新しい人達なのにね」

 本店の上の人達が考えることはよく分からない。


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