メシトモ!
「お役に立ててよかったです」

 少し不機嫌に言うと、佐々木さんが私の頭を撫でてきた。大きな手のひらに頭を覆われる。男の人の手だと思った。

「笑いすぎたね。悪意はないから。そんな顔しないで」

「別に怒っていませんから」

 佐々木さんは小さく微笑んで、ハイボールを飲み干して、また生ビールを追加した。

「あ、忘れていたけど、指令はちゃんと守ろうね」

 さっきまで大笑いしていたのとは打って変わり、爽やかな笑顔で言われた。

 もう、敬語でもなんでもいいじゃないか。そう思ったけど「ごめん、忘れてた」と言って、強制的に敬語を止めた。

 私たちは、そのあともお互いの仕事の話や今度はどんな居酒屋へ行くかを話した。

 時間はあっいう間に過ぎてしまい、いつも通り最寄り駅で別れた。

 バスターミナルへ向かう佐々木さんの後姿を見たとき、なにか違和感を持った。足元をよく見ると、右と左の靴下のデザインが違っていた。

 右足は黒の無地、左足はブラウンに黒のボーダーだった。たかが靴下。それを別れの挨拶も済ませて、それぞれの家路に向かっているのに、わざわざ伝えるのも変だ。

< 110 / 235 >

この作品をシェア

pagetop