ラヴィアン王国物語
 屈辱でむぎゅ、とアイラはアーモンドの茂った枝葉を強く掴んだ。ガサ、と茂みを揺らした前に、今度は男が二人。第一王子ルシュディが背の高い男と会話している。

「第一宮殿を取り仕切るルシュディ樣付きの事務官様ですわ。……あ、姫樣」

 アイラは茂み越しにこそりと動き出した。サシャーがぐいとアイラの腰布を掴んだ。

「危険です、姫様。ラティーク王子にご相談を」
「なんで相談するのよ。ルシュディ王子はヴィーリビアに喧嘩売った! ラティークより情報があるんじゃない? 聞き出さないと! これは王女命令よ」

 男二人は何やらヒソヒソやり、さっと歩き出した。「行くよ」とアイラは見失わないようにこそこそ進んだ。二人は宮殿の奥に向かって曲がり……煙の如く、消えていた。

「消えてしまった。一瞬で……?」
「蜃気楼か何かでしょうか。やけにはっきりしてましたわ」


「ううん、消えたのよ……ねえ、やっぱりこの宮殿、変。近づくほど、水が閉じ込められてる感じが濃くなるの……あ!」


 アイラは脳裏に激しい衝撃を感じた。

 ——水の波動を受けたヴィーリビアの民が一塊になっていれば、砂漠の乾いたオーラの中でも、際立って来るのではないだろうか? アイラは平坦に告げた。

「皆は、地下にいる。間違いない、サシャー」

「まさか、そんな……それでは幽閉ではないですか! 姫様のお間違いでは」

「もう一度、探ってみる。さっきよりずっと濃いから見つかるかも」

 アイラは目を閉じた。巫女修行を終え、水の恩恵の洗礼を受けたアイラには、水と交流する術がある。細く、長い微かな水の息吹から、スウッと青い光が視え始めた。

「見えた! 行こう! サシャー、ついてきなさい!」

「姫樣ぁ」サシャーは泣きそうな声になりながらも、アイラの後をついて来た。

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