ラヴィアン王国物語
 確かにラティークの言葉通り。
 螺旋階段の上から、カツーン、とゆっくりとした足音が響いてくる。

「聞いているの? 貴方は知っているんでしょ? コイヌール! あんたたちが奪った。あたしは全部取り返しに来」

 ぱち、ぱちと数度の瞬きをして、アイラはぎゅとラティークの鎖骨に指を引っかけた。

唇から唇に、伝わる優しい風。(魔法だ、魔法魔法!)そう思っていても、蕩けそうな何かが心に忍び込んで、鮮やかな花を咲かせようとする。

(……あったかい。ってまた唇奪われてる……!)

 反射的に構えたところを、ラティークに難なく抑えられ、むっとした。ラティークは唇をアイラから離し、冷静な声で囁いた。

「靜かにしろと言った。見つかったら、困るのはきみだ」
「そんなにあたし、隙だらけ? ハレムの王子に敵うとは思っていないけど、ひどい」

 唇を押さえたアイラの前で、ラティークはふいと視線を逸らせた。

「靜かにして欲しかっただけだ。不可抗力だが、殴るならどうぞ」

(これじゃ、ときめくどころではない。これでは、ときめく隙もないっ……)

「どうせぼくの魔法は効かないよ!」
悔しそうなシハーヴの声に正気に還った。ラティークは、アイラの手首を掴んだままだ。

「きみの友達から、全部聞いた。第一宮殿の地下神殿を探り当てるとは思わなかった」
「友達?」
「いるだろ。髪ふわふわの、背が小さいけど、胸はこう桃みたいな……」

 ラティークが胸に手を当てて言っている友達とは、サシャーのことだ。

「いやらし。そう、全部、聞いたの……。なら、遠慮はしないわよ」
「静かに。それとも、誘ってるのか。それが娼婦の手管というならば、応えるが」

 ——とんだ侮辱。ラティークがクスと唇を開いた。慌てて唇を、む、と隠したアイラに
微笑んで、厳しい声音になった。

「シハーヴ、ここ、何分もてる?」
「五分が限度」



「短いな。では、五分、王女、ここで動かずにじっとして。こいつの魔法、不安定だから
きみも協力するんだ、いいね? もしも見つかったら、幽閉だ」


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