ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
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 龍の背は思っていた以上に不安定で、ジアの後ろに座る水色のポニーテールをなびかせる女性にぶつかってばかりいた。

「さっきからごめんなさい。座っているはずなのに不安定で。」
「…いいえ。背中、支えますか?」
「ありがとう。助かるわ。」

 龍の背に乗る6人のうち、唯一の女性のようだ。

「女性は一人だけなのね?」
「はい。」
「シラ、もう仲良くなってんの?」
「あなた、キースにひどいことしようとした…!」
「あぁ、あの優男ね。」
「優男じゃない!」
「なに、彼氏?」
「ち、違いますけど!」
「っていうか、あなたじゃない。俺の名前はフォーン・クスル。そっちはシラ。」
「シラ・トーヴァです、ハルアトスの姫君。」

 シラは礼儀正しい女性のようだ。小さく頭を下げて、ジアの目を真っ直ぐに見つめている。

「…どうか、した?」
「…本当に美しい金色の髪と瞳をお持ちなのだ…と思いまして。」
「シラの髪だって綺麗よ。ってごめんなさい、いきなり呼び捨ては失礼だったわね。」
「いえ、私たちは王族でもなんでもありませんので、呼び捨てで構いません。」
「そう?じゃあ、シラで。よろしくね。」
「…お前、この状況わかってんのか。シラと仲良くしてる場合じゃなくね?」

 フォーンの言うことももっともだが、ジアは笑顔で返す。

「…それはそうなんだけど、ここで敵対する意味もないし、…それに。」
「それに、なんですか?」
「あなたたちから、はっきりとした殺気を感じないの。あたしを殺す気はない、ってことでしょう?」
「はは、すげー女連れてきちゃったなぁ、ラン。」

 フォーンはランと呼ばれた龍にそう言った。
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