ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
― ― ― ― ― 

「はぁー久しぶり!城下のこの感じ!」

 マントのフードを深く被り、金の長髪を隠して進む。こうして国民の生活を盗み見ることが最近の彼女のブームだ。
 この彼女こそ、ジア・ウォリティアヌ・ハルアトス。王位継承権第一位の、次期国王だ。ただ、現在の衣服は動きやすさを重視したショートパンツであり、その脇には小刀をさしてある。たとえこのマントをはがしたところで彼女を一発で姫だと見破るのは難しいだろう。
 これほどに『普通』を好むのには理由がある。そもそも彼女は18年間、普通の生活を営んできたからである。
 ジアとミアは幼き頃にある魔女に呪いをかけられ、2人で1つの呪いを共有することになった。ジアは満月の夜だけ猫になり、ミアはそれ以外の時間、猫になってしまう呪いである。また、今でこそ二人は両目とも金、銀となっているが、呪いにかけられていた時代は目の色も共有していた。つまり、金と銀の目をそれぞれ持っていたのだ。
 その魔女の陰謀を打ち破り、この世界に平和をもたらしたのは間違いなくジアであり、それゆえに英雄と称えられ、ハルアトス家の王女として今は生きている。しかし、自由の多い18年間を生きたジアにとって、与えられた新しい居場所は1年以上経ってもやや窮屈な場所でもある。
 そしてもう一つ、ジアを語るうえで欠かせないのはその魔力である。魔女の陰謀、そして呪いに対抗するために解き放たれたのは、ジアが隠し持っていた膨大な魔力だ。
 ジアとミアには魔力が秘められていた。しかも、並大抵のものではなく、とても特殊な。
 ジアには時を司る魔力、ミアには治癒の魔力。それを脅威とみなした魔女が二人に呪いをかけたのである。 
< 2 / 100 >

この作品をシェア

pagetop