ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「…シュリにはちょっとわからないかもね。」
「何がだ?」

 シュリは不服そうにシャリアスを睨んだ。

「大事な人に守られたキースの気持ち。」
「…そうかもしれんな。」
「気持ちが急いてしまうのも、無理のない話だよ。ジアちゃんは確かに、この国の希望だ。でもその前に、キースの希望でもあるんだよね。」
「…そうだな。」

 そう呟いたシュリの目は、アスピリオのある方角を見つめている。

「キースは…境遇ゆえに考え方が負の方向に寄っていくな。」
「仕方がないよ。それこそ、獣と人間の混血なんて自分と重なって見えたんじゃないかな。」
「だろうな。あの時も様子が変だった。」
「でも、そうやって表情から何を考えているかわかりやすくなったのは、確実にジアちゃんの影響だね。ジアちゃんは、…凍てついたキースの心を溶かした。」
「おかげで、私たちもある程度キースの思考が読めるようになった。」
「違いないね。」

 シュリは小さく息を吐き出した。

「…全く、男というものは面倒だな。守れないくせに、守られるのも嫌だときた。」
「守れないくせにっていうのは、結構ぐさっとくるよ、シュリ?」
「それに、女はただ守られているだけの存在ではないことも、そろそろ学んでほしいものだ。」
「そんなの、ちゃんとわかっているよ。少なくとも僕とキースとクロハは、痛いくらいにね。僕たちは何度も君たちに守られてきた。だけどね、今回の件は守る、守られるだけじゃないんだよ。」
「ほぉ。」
「さっきシュリが言っていた通りだと、僕も思うよ。魔法使いが受け入れられていない現状で、キースがあの場で魔法を使っていたら、民衆はさらなる混乱状態に陥っていただろうね。キースのもてる全ての魔力を使って龍を倒せたかどうかもわからないし。もし、万が一ジアちゃんが大怪我、致命傷の傷を負っていたらそれこそ一大事だ。龍が暴れたこともそうだけれど、『また魔法使いが問題を起こした』ととられてもおかしくはない。かなりの傷を負った状態で、使い魔まで呼び、それもまるでこのことを予期していたかのように使える使い魔を飛ばしたこと。キースの行動は、僕たちからすれば100点満点の行動だよ。でもね、理屈じゃないんだ。」
「なるほど?」

 シャリアスは右の口角を上げて笑う。

「目の前で好きな女に、違う男を選ばれる。まぁ、ジアちゃんの気持ちがあって龍を選んだわけじゃないのは明白だけど。いい気はしないよ。…その辺の感情、あんまり気付いてなさそうだなとは思うけどね。」
「あいつはいろんな感情が鈍いからな。自分も、他人のも。」
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