ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「ははっ!ほんっと変な子連れてきちゃったね、ラン。」
「うるさい、黙っとれ!」
「初めまして、王女様。ボクはラビ・トトノア。ラビって呼んでね。」

 ラビのピンクの髪が跳ねるたびに揺れる。

「ガイ、姫さん、部屋に案内したってーな。シラ、監視はお前の仕事だ。」
「ええ。」
「おうよ。では、王女様、こちらへ。」
「あ、ありがとう…?」

 監視という物騒な言葉は聞こえたが、ここの人たちはジアに手荒なことは全くしない。腕を縛られるわけでも、口を塞がれるわけでもない。これで敵意をもてという方が無理な話である。逃げ出すチャンスはあるかもしれないが、土地の様子もわからないままで逃げ出すことはとてもリスクのあることだということも知っている。治癒の能力を有したミアはいない。大怪我をすれば、ジアの魔力ゆえの再生力をもってしても回復が間に合わないことだって考えられる。大きな魔力があっても不死ではない。ここは冷静に、この周辺の様子を探っていく必要がある。そして、ランの能力について、このアスピリオのことを知らねばならない。ある程度町としてまとまった形があるのに、地図に載っていないのはなぜなのか、も。

「こちらになります。」
「え、…あの、こんなにちゃんとした家を使えるの?」
「あいにく、宿というものは存在しません。空いているのは家だけです。シラ、後は頼んだ。」
「ガイはどうするの?」
「おれはここで警備だ。」
「…ここは、あなたが夜通し警備をしないといけないくらい物騒なの?」
「そんなわけあるか!アスピリオは争いのない穏やかなところだ。」

 ガイと呼ばれたやたらガタイのいい男がそう言った。

「…じゃあ警備はいらないわ。あたしは逃げない。約束する。夜通し外にいるなんて風邪をひくもの。シラがあたしの面倒を見てくれるし。ガイ、あなたはちゃんと休んで。」
「そういうわけにも…ランに言われてるし。」
「じゃあ…そうね、一時間くらいここにいたらあとは戻って。ランだって休むでしょう?あたしは絶対に逃げない。だから、あなたの過失には絶対にならない。」

 ジアは目を逸らさずに真っ直ぐ言い放った。
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