ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「…シュリ、まぁそこはキースに任せるけど、とにかくランくんに精神的なダメージを与えて、付け入るスキがないってことをわからせなくちゃならないよね。…その言葉はきっと、キースが考えなくちゃダメだけど。」
「問題は、キースがどうやってジアに近付くか。」
「ここの人たちを傷付けずに、です。龍になって暴走されては…困ります。」
「ランがここを焼き尽くすことは考えられないが。」
「…そうですね、それはないと思いますが、キース様を傷付けることは…。」
「それはいいんです。」
「え…?」

 シラが心配そうに問い返す。

「それは、自分で防ぎます。それに多少の怪我なら、治りますし。…ああ、でも防ぎ方も考えないとか…。」
「そうだ。そこも問題だ。炎を何で丸め込むのか。水の被せ方によっては被害が出るぞ。」
「…そうなりますね。」

 得意とする風の魔法はこの場合逆効果だ。かといって、水を呼び寄せてもあの炎に対抗できるかわからない。最もいい方法は、『龍にさせない』方法だ。

「…まぁ、まだ儀式まで時間はある。シラ、と言ったな。そなたはまず、ジアの様子をよく見守ってくれ。」
「ジア様の、ですか?」
「あの娘は、とても強い。だがな、…今は少し、強いだけの姫君ではないはずだ。」

 そう言ってシュリは一瞬だけキースを見て、シラに視線を戻し、そっとシラの耳元で呟く。

「…ジアを普通のお姫様に、戻せる唯一の人がここまで来たからな。」
「…そうですわね。」

 シュリとシラは顔を見合わせて小さく微笑んだ。

「シラさん。」
「はい。」
「これを、ジアに届けてもらってもいいですか?」
「これ、グロウでしたね。」
「どうしてそれを?」
「ジア様に見せていただきました。一番最初に覚えた魔法だと。」
「…そう、ですか。」
「これ、触ってしまって大丈夫ですか?」
「はい。熱くないので。」
「必ずお渡ししますね。」

 そう言って、シラは部屋を後にした。
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