きっかけは誕生日
「店には色んな人が出入りするからね。自分用に装っているのか、誰かのために装っているのか……何となく解るけど」

 小さく呟いて、金井さんは私を見た。

「いつもの小柳さんは、それが仕事がしやすいからだと思っていたし、今日の服装はそれを逸脱しない程度に、お洒落をしてるなと思いました」

 動きやすければ、それで良かったので……

「何か急な変化があって、驚きましたか?」

「ええ。少し驚いた……かも」

「小柳さん、素直ですからねぇ」

 金井さんはそう言って苦笑した。

「咲良はともかく、その同僚も見る目がないな」

「え?」

「じゃ、先に服屋に行きましょう。ところで、小柳さんはお酒は飲める方?」

「え? えーと。まあまあでしょうか。飲みに行かないので」

「だろうねぇ。ところで敬語やめない? 堅苦しいよ」

「……私は堅苦しい人間でしょうか」

「俺が苦手なだけなんだけどね。今はゆるゆるな感じなわけで」

 そんな話をしながら連れていかれた服屋さんは、咲良ちゃんのお姉さんのお店で……

 それならそれで、咲良ちゃんに連れてきて貰えたんじゃないかと思いつつも、咲良ちゃんのお姉さんの話は面白くて、楽しんでいるうちに時間はあっと言う間に過ぎていった。

「買ったねぇ」

「買っちゃいましたねぇ」

 まぁ、今まで適当にして、ブランドものにも興味がなかった女なので……財布残高はたくさんあったと言うか。

 大きな紙袋をいくつもぶら下げて、金井さんに呆れた顔をされた。

「少し持つよ」

「え。や……悪いですから」

「せっかく男がいるんだから、使わない手はないだろ。いいから」

 そう言って、紙袋をいくつか持ってくれた。

「ありがとうございます」

「じゃ、そろそろ夕飯にしよう。お洒落な店はあまり知らないけれど」

「お洒落な店に連れていかれたら、私は緊張しちゃいますよ。それに勘違いしちゃったら、金井さんが困りますでしょう?」

 笑いながら言ったら、金井さんは眉を上げてニヤッと笑った。

「別に困らないよ。じゃ、この近くに美味しいレストランバーがあるから、そこでいい?」

「え……ええ」

「じゃ、こっちね」

 言われるままについて歩きながら、眉をひそめる。

 ……今の、どういう意味だろう。

 困らない……とか、言ったかな?

 困らないの?

 私に勘違いされても、金井さんは困らないって……

 どういうこと?
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