きっかけは誕生日
 考えていたら、ビールの電飾がたくさんついた、バースタイルのお店に着いて、店員さんのにこやかな笑顔と一緒にボックス席に案内された。

「少し変わってるけど、ちゃんとした料理が出てくるよ」

「……金井さんの知り合いのお店?」

「うん。まぁ、何回か通っていれば知り合いになるかな。ここで料理作ってる方と、製菓の専学で一緒になったことあるし」

「製菓の専門学校に?」

「まぁ、店を出すのにそれなりに勉強はしたよ。いきなり店出せるほど世の中甘くないし」

「はあ……」

 そうだね。世の中そんなに甘くない。

 そんな風に思いながらも、メニューを見て、それぞれお料理とお酒を注文した。

「あ。そうだ朱音ちゃん。ちょっと」

 金井さんが店員さんを呼び止めている間に、店内を見回す。

 見た目は賑やかなカクテルバー。

 カウンターの席に、ボックス席がいくつかのフローリングの店内。

 奥からいい匂いが漂ってくるし、カウンターの中では男の人が本格的にシェーカーを振っている。

 ぼんやりしていたら、また笑われたような気がして金井さんを見た。

「少し困っているのは小柳さんの方みたいだね」

「え……?」

「小柳さんが顔を赤くするタイプとは思わなかったけど」

 無表情に言われて、首を傾げる。

 私はあがり症でも赤面症と言うわけでもないから、滅多に赤くなることはないけれど……

 今朝の事を言っているんだと気がついて、目を細めた。

 そりゃまぁ、日常生活を普通に送っていれば、そんなに赤くなることなんて滅多に起きないでしょう。

 だけれど、今朝の出来事は、女性としては普通に赤くなる出来事だと思うのよ。

「い、いろいろ忘れてください」

「いやぁ。無理」

「無理とは言わずに、忘れましょうよ、恥ずかしい」

「下着は忘れる。マナーだと思うから」

「いえ。言ってる段階で、すでにマナー違反だと思うんですが」

「だって、想像していたのと違ったから」

 そ、想像していたのと?

 何、それは……

「白だと思っていたから。まさか……」

「わー! 忘れてくださいってば!」

「男としてはラッキー」

 ……爽やかにそんなことを言われても困りますよ。
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