イジワル上司と秘密恋愛
異動願いを出しても、一般職の私がわざわざ関西事業所に移される可能性はとても低かった。
『万が一辞令が出たとしても一般職だと引越しの補助金さえ出ないよ』などと部長に止められたりもしたけれど、もちろんそんなことであきらめられる筈がない。
たとえ一般職でも、努力して、必要とされるだけの実績を生み出せば関西への異動も不可能じゃない。そう信じて、毎日の仕事に邁進した。
この一年半でメインとして通った企画がひとつ、商品にまで至らずとも発案として活かされた企画がみっつ、社内コンペにも参加出来た。
寝る間も惜しんで努力し続けたおかげで、仕事に対する向上心と斬新なアイディアを生み出すセンスが認められ……ようやく部長に『関西事業所へ送り出せるだけの能力がある』と太鼓判を押してもらえたときには飛び上がるほど嬉しかったっけ。
全部は、綾部さんを追いかけたい一心だった。
もう一度彼に会って全てを打ち明けて謝りたい。プライベートだけじゃない、職場でも私はたくさん迷惑を掛けたから、だから仕事で成長した春澤志乃を見せることも償いのひとつだと思って。
仕事に打ち込み、それに伴って人間関係も広くなっていくと、綾部さんに甘えていた頃の自分がいかに子供だったかも実感できた。
こうして反省の尽きない一年半はあっというまに過ぎていき——私は念願の春を迎える。