イジワル上司と秘密恋愛

「木下くん、どうしてここに?」

あまりに意外すぎる再会に私が驚いたのも無理はない。

けれど彼は落ち着いた様子で大きな口の口角を上げた笑みをニコリと浮かべると、こちらに向かって名刺を差し出してきた。

「ご挨拶が遅れました。私、リストランテ木下グループの代表取締役会長、木下浩輔と申します」

「え? ええっ!?」

あまりの驚きになにかの冗談かとさえ思ってしまった。けれど、記憶を辿ってみれば確かに彼の会社は飲食系列だったと言っていたような……。

「木下くんの会社って、こんなに大きかったの?」

以前会っていた頃、彼はあまり仕事のことは話さない人だった。とても多忙な中で時間を作って会いに来てくれてることは伝わっていたけど……グループを取り仕切る会長だったなんて。

けど、驚いて目を剥いている私を見て木下くんはぷっと吹き出すと、可笑しそうにクスクスと笑い出した。

「あはは、肩書きは立派だけど相変わらずの弱小社長だよ。グループって言ったって、まだ三店舗しかないんだ。しかも今年に入ってようやくの三店舗目だし。取締役だって俺を含め三人しかいないんだからな、偉くもなんともない」

肩を竦め恥ずかしそうに笑いながら木下くんはそう言ったけれど、私の目から見れば同い年の彼が会社を起ち上げて立派に経営してるだけも尊敬に値する。それに本人は謙遜しているけれど、今年に入って店舗数が増えているということは、経営は順調ということだ。
 
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