イジワル上司と秘密恋愛
「すみませーん、そろそろこちら施錠しますんで」
「あ、はい。分かりました」
時計を見ると九時すぎ。どうやら深夜は中庭の立ち入りは出来なくなるようだ。
すっかり水を差されてしまい肝心なことを口に出せず、なんだか気落ちしてしまった。
「綾部さん、行きましょうか」
仕方なく中庭から出ようと思い、振り返って綾部さんを見上げたとき。
「綾部さん?」
彼はどこか緊迫に引きつったような表情でホテルの通路に視線を向けていた。
「綾部さん? どうかしたんですか?」
「あ、いや……なんでもない」
様子のおかしいことがなんだか気になったけれど、綾部さんはさっさとホテルの中に戻ると、
「もう遅いから部屋に戻りな」
とだけ言って、背を向け歩いて行ってしまった。