イジワル上司と秘密恋愛
「春澤……」
真剣な声色で呼ばれ、私はおずおずと顔を上げる。
「だって、伝えたかったから。ごめんなさいも、本当は綾部さんに愛されてすごく嬉しかったって気持ちも、ちゃんと私の見せられる誠意の全部で伝えたかったから」
まっすぐに言葉を紡ぐと、綾部さんの表情が変わった。
穏やかな口もとを引き結び、射抜くような眼差しで私を見据える。
冷たい妖しさを湛えているのにどこか甘い瞳は、私の心にも身体にも一瞬で火を灯してしまう。
この眼差しが、好きだった。
大人の妖しさで私を翻弄して、熱く甘く溶けさせるこの視線が。
「綾部さん、私——」
——今でもあなたのことが好きです。例え片思いでもいい。狂おしいほど、あなたが好き。
最後に残った伝えたかった台詞を告げようとしたときだった。
ガチャっと音がして、綾部さんとそろって振り向くとホテルの従業員がドアを開けて上半身を覗かせていた。